実際、起業したい方にとっては、「どんなビジネスをやるか?」は徹底的に考えているかと思いますが、「どんな会社タイプにするか?」については、会社設立時にはじめて考えるという方も少なくありません。
それで全く構わないのですが、会社設立のタイミングで「どの会社タイプにすべきなのか?」、選択肢とメリットデメリットは抑えておく必要があります。
目次
会社タイプって何?
会社タイプとは
会社には
- 株式会社
- 合同会社(LLC)
- 合名会社
- 合資会社
という4つの種類があるのです。
会社タイプの機能比較
会社のタイプ | 株式会社 | 合同会社 | 合名会社 | 合資会社 |
---|---|---|---|---|
公開性 | 公開会社/非公開会社 | 非公開会社 | 非公開会社 | 非公開会社 |
定款の認証 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
最低出資者数 | 1人 | 1人 | 1人 | 2人 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 無限責任 | 有限責任/無限責任 |
役員の任期 | 最長10年 | 無期限 | 無期限 | 無期限 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会/出資者総会 | 社員総会/出資者総会 | 社員総会/出資者総会 |
特徴 | 9割以上が株式会社を選ぶ。一般的な会社のタイプ | 近年、利用する方が増加している会社のタイプ | ほとんど利用はありません。 | ほとんど利用はありません。 |
メリット | ・対外的な信頼性が高い ・一般的な会社のタイプ | ・定款の認証が不要な分、安く設立できる ・役員の任期が無期限 ・利益の配分がしやすい | - | - |
デメリット | ・定款の認証が必要 ・役員の任期に10年という期限がある ・利益の配分がしにくい | ・社員が意思決定権を持つので、社員の意思に相違が出てくるとトラブルが大きくなる ・対外的な信頼性が低い | - | - |
定款費用 | 定款認証 50,000円 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) |
登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 | 60,000円 | 60,000円 |
会社実印等 | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) |
そうだと思います。
一つずつ丁寧に説明していきます。
4つのうち実際に利用されるのは「株式会社」「合同会社(LLC)」の2つだけ!
基本的に会社の種類は4種類あるのですが
平成27年度の実績データ
会社タイプ | 設立件数 | 構成比 |
---|---|---|
株式会社 | 88,803件 | 79.8% |
合同会社(LLC) | 22,223件 | 20.0% |
合名会社 | 119件 | 0.1% |
合資会社 | 93件 | 0.1% |
合計 | 111,238件 | 100.0% |
なぜ「合名会社」「合資会社」を選ぶ人は少ないのか?
先ほどの比較表にもある通りで
出資者の責任が
- 「株式会社」「合同会社(LLC)」 → 有限責任
- 「合名会社」「合資会社」 → 無限責任
だからです。
出資者の責任の「有限責任」「無限責任」とは
を言います。
有限責任の場合
法人と個人の責任は分離されているので、出資者に返済義務はなくなります。
無限責任の場合
返済しきれなかった借金は、出資者が肩代わりして返済しなければなりません。出資者に返済義務が残ってしまうのです。
噛み砕いて言えば
万が一、会社経営が失敗して「債務超過」の状態になった時に
- 倒産したら、経営者の借金が残る → 「合名会社」「合資会社」
- 倒産したら、経営者の借金が残らない → 「株式会社」「合同会社(LLC)」
という違いがあるのです。
確かに
銀行融資やビジネスローンなどを利用するときには、経営者(代表取締役)が連帯保証人になる「個人保証」が一般的です。
この場合、会社が借り入れを返済できずに倒産してしまったら、個人である経営者(代表取締役)に支払い義務が残ります。
確かに同じことなのですが・・・
会社の経営状態が良い、企業規模が大きくなる、ことで、交渉によって銀行融資から「個人保証」を外すことができます。
また、政府系金融機関(商工組合中央金庫、日本政策金融公庫)では、政府の方針によって「個人保証をつけない融資」の割合を増やしているのです。
個人保証がある融資を受ける場合には、有限責任の「株式会社」「合同会社(LLC)」とは言えど、倒産後の債務の返済義務を負う形になってしまいますが、それは努力で外すことができるのです。
責任を回避できる可能性があるのですから、やはり、会社タイプの選択肢としては「株式会社」「合同会社(LLC)」を選ぶべきなのです。
「株式会社」「合同会社(LLC)」のメリットデメリット比較
さて、選択肢は「株式会社」「合同会社(LLC)」の2つに絞られたわけですが、どちらを選ぶかを考えなければなりません。
確かにそうなのですが、年々「合同会社(LLC)」の設立数は増えています。
年度 | 設立数 |
---|---|
平成18年度 | 3,392 |
平成19年度 | 6,076 |
平成20年度 | 5,413 |
平成21年度 | 5,771 |
平成22年度 | 7,153 |
平成23年度 | 9,130 |
平成24年度 | 10,889 |
平成25年度 | 14,581 |
平成26年度 | 19,808 |
平成27年度 | 22,223 |
では、「株式会社」と「合同会社(LLC)」は何が違うのでしょうか?
違いその1.設立費用が安い
株式会社の場合
- 定款認証費用:50,000円
- 印紙税:40,000円
- 登録免許税:150,000円
- 会社実印等:10,000円
合計:250,000円
電子定款を利用した場合
- 定款認証費用:50,000円
- 印紙税:0円
- 登録免許税:150,000円
- 会社実印等:20,000円(データを読み取るシステムが必要なためコスト増)
合計:220,000円
合同会社の場合
- 印紙税:40,000円
- 登録免許税:60,000円
- 会社実印等:10,000円
合計:110,000円
電子定款を利用した場合
- 印紙税:0円
- 登録免許税:60,000円
- 会社実印等:20,000円(データを読み取るシステムが必要なためコスト増)
合計:80,000円
違いその2.公告も不要
公告の義務とは?
- 計算書類の公告(決算公告)
- 合併に関する公告
- 会社分割に関する公告
- 組織変更に関する公告
- 資本金及び準備金の減少に関する公告
- 解散公告
- 基準日に関する公告
- 定款変更等通知公告
- 組織再編等通知公告
- 株券等提出公告
という事項について、
- 官報公告:約6万円
- 新聞広告:かなり高額
- 電子公告:無料~3万円(帝国データバンク等)
という方法で公告をしなければなりません。
公告の義務
- 株式会社:義務
- 合同会社:不要
ですから
実態としては、株式会社でも公告をしていない中小企業がほとんど
公告の義務について、はじめて聞いたという方も多いのではないでしょうか。
上場企業はIR情報として、決算情報をウェブサイトに掲載する義務がありますが、非上場企業の場合に決算情報をウェブサイト上に公開している会社は稀です。
とくに社員数が数名、十数名の中小企業で決算情報を公開しているところはほとんどありません。
これはなぜかというと
公告の罰則規定
というものがあるのですが、これが科された事例がないからです。
- 面倒だからやらない。
- 情報を公開したくないからやらない。
- お金がかかるからやらない。
・・・
理由は様々ですが、根底にあるのは
- 罰則があっても、罰則が使われた事例がないのでやらない。
というものです。
違いその3.会社経営の権限が違う
株式会社の場合
出資割合の多い人の意向で会社経営の方針が決まる
株主総会で会社の重要な経営方針を決定するのですが、このときに物を言うのは「株主割合(出資割合)」です。
資本金:1000万円の会社
- A:800万円(出資割合:80%)
- B:200万円(出資割合:20%)
だとすると、Aさんの意向に即して、株主総会の事項が決定されることになります。
合同会社(LLC)の場合
会社経営の方針は、全社員(出資者)一致で決まる
※合同会社(LLC)の場合は、「出資者」のことを「社員」と呼びます。
違いその4.配当の違い
会社経営に対する決定権と同じように報酬の配分である「配当」にも違いがあります。
株式会社の場合
1株あたり○○円で配当する
資本金:1000万円(1000株)の会社
- A:800万円(株式:800株)
- B:200万円(株式:200株)
1株当たり、1,000円の配当
とすれば
- Aさんは80万円の配当を受け取る
- Bさんは20万円の配当を受け取る
形になります。
合同会社(LLC)の場合
利益配分は自由に決定できる
違いその5.役員の任期が違う
役員の任期は
- 株式会社:通常2年、最長10年
- 合同会社(LLC):無期限
役員の任期を延長する場合には、「登記事項」を変更しなければなりません。
登録免許税
- 資本金が1億円以下:1万円
- 資本金が1億円以上:3万円
※司法書士に依頼する場合は+2万円程度
ですので、10年ごとに1万円が発生することになります。
違いその6.上場できる?かできないか?
上場の可否
- 株式会社:上場できる
- 合同会社(LLC):上場できない
結局、「株式会社」と「合同会社(LLC)」はどちらを選ぶべきか?
理由はいくつかありますが・・・
「合同会社(LLC)」には、14万円のコストメリットがありますが
実際に会社経営をしていて思うのは
「対外的な信用は、何千万円、何億円の価値がある」
ということです。
会社の信用が低ければ
- 良い提案をしても、取引先に受け入れられない。
- 社員を募集しても、良い人材の採用ができない。
- 良質な外注先を見つけても、仕事を受けてくれない。
・・・
いろいろなダメージがあるのです。
一般的には
- 1人会社なら、低コストの「合同会社(LLC)」がおすすめ
- 数名のパートナーと起業するなら、「合同会社」も良い
と言われていますが、
1人会社であっても、対外的な信用の違いで「受注ができない」ことも往々にしてあるので、「設立コストが14万円お得」というぐらいのメリットであれば、合同会社(LLC)を選ぶ理由というのは、それほどないのです。
起業時に14万円のコスト差を重視して「合同会社(LLC)」を選ぶぐらいなら、14万円貯めてから「株式会社」を設立することをおすすめします。
会社経営には
- 営業
- 採用
- 資金調達
- 社員教育
- アウトソーシング
・・・
いろんな機能がありますが、すべて「信用力が大きければ大きいほど、効率的に機能する」のです。
「合同会社(LLC)」から「株式会社」へ組織変更することもできるので
- すでに「合同会社(LLC)」を作ってしまった方
- どうしても設立コストを抑えたい方
は、タイミングを見て「株式会社」への組織変更をおすすめします。
まとめ
会社タイプとは
- 株式会社
- 合同会社(LLC)
- 合名会社
- 合資会社
という4つの種類があるのです。
万が一、会社経営が失敗して「債務超過」の状態になった時に
- 倒産したら、経営者の借金が残る → 「合名会社」「合資会社」
- 倒産したら、経営者の借金が残らない → 「株式会社」「合同会社(LLC)」
という違いがあるため
起業する方の8割は「株式会社」、2割は「合同会社(LLC)」と選択肢は2つに絞られます。
「株式会社」と「合同会社(LLC)」の違いは
- 違いその1.設立費用が安い
- 違いその2.公告も不要
- 違いその3.会社経営の権限が違う
- 違いその4.配当の違い
- 違いその5.役員の任期が違う
- 違いその6.上場できる?かできないか?
等があります。
起業経験者としては
「合同会社(LLC)」には「設立費用が安いので起業しやすい」というメリットがありますが、まだまだ一般的な認知度は低く「合同会社って信頼できないイメージがする。」と思う方が少しでも取引先にいれば、経営上の大きなマイナス点になってしまいます。
「合同会社(LLC)」が世間的に認知されるまでは、「株式会社」の一択と言っていいでしょう。
起業するのであれば「株式会社」をおすすめします。
「有限会社というのは聞いたことあるけど、合同会社って何?」
・・・