はじめて起業する方は「決算期」の意味を体感していない方が多いので、致し方ありませんが、「決算期」は思っている以上に重要なものです。今回は「起業時の決算期の決め方」について解説します。
目次
そもそも、決算期・決算月・事業年度って何?
決算とは
を言います。
会社は「決算」をすることによって、収入や支出、利益を確定し、それに基づいて「納税」をしたり、上場企業であれば「決算報告」を出すのです。
また、会社は「決算」の時に「損益計算書(PL)」「賃借対照表(BS)」「キャッシュフロー計算書(CF)」などの財務諸表を作成し、それをもとに来季の戦略を立てたり、融資を受けたりする重要なものなのです。
と考えて良いでしょう。
「決算」は、原則1年に1回ですが、1年以内であれば問題ないので、1年に2回決算をしても、4回決算をしても構いません。しかし、ほとんどの会社は1年に1回「決算」を行います。ただし、上場企業や特定の非上場企業には四半期決算(3カ月毎)、中間決算(6カ月毎)が義務付けられる場合があります。
この「決算」をする最終日のことを「決算期」と呼びます。
「決算期」の翌日から次の「決算期」までの期間を「事業年度」と呼びます。
大前提として
決算期はいつに設定するのも自由です。
そのため、経営者が自由に決められます。
例
A社
- 決算期:12月31日
- 事業年度:1月1日~12月31日
- 決算月:12月
B社
- 決算期:3月31日
- 事業年度:4月1日~3月31日
- 決算月:3月
C社
- 決算期:9月15日
- 事業年度:9月16日~9月15日
- 決算月:9月
となります。
ほかの企業は、いつを決算期にしているのか?
自分の会社の決算期を決める上で参考にしたいのは「他の会社はどうしているのか?」です。
漠然と、上場企業などは3月決算の会社が多いと知っている方もいるかと思いますが、実際のデータを見てみましょう。
国税庁「決算期別の普通法人数」平成28年度
決算回数 | 決算月 | 申告法人数 | 構成比 | 資本金1000万円以下 | 構成比 | 資本金1億円未満 | 構成比 | 資本金1億円以上 | 構成比 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
年1回決算 | 4月 | 189,050社 | 7.1% | 172,128社 | 7.3% | 188,516社 | 7.2% | 534社 | 1.8% |
5月 | 219,135社 | 8.2% | 195,151社 | 8.3% | 218,301社 | 8.3% | 834社 | 2.8% | |
6月 | 258,299社 | 9.7% | 228,891社 | 9.7% | 256,959社 | 9.8% | 1,340社 | 4.5% | |
7月 | 202,280社 | 7.6% | 182,092社 | 7.7% | 201,747社 | 7.7% | 533社 | 1.8% | |
8月 | 232,993社 | 8.8% | 209,887社 | 8.9% | 232,230社 | 8.8% | 763社 | 2.6% | |
9月 | 289,884社 | 10.9% | 256,565社 | 10.9% | 288,089社 | 10.9% | 1,795社 | 6.0% | |
10月 | 124,759社 | 4.7% | 114,301社 | 4.8% | 124,276社 | 4.7% | 483社 | 1.6% | |
11月 | 93,500社 | 3.5% | 85,606社 | 3.6% | 93,009社 | 3.5% | 491社 | 1.7% | |
12月 | 270,126社 | 10.1% | 239,362社 | 10.1% | 265,351社 | 10.1% | 4,775社 | 16.1% | |
1月 | 95,658社 | 3.6% | 85,448社 | 3.6% | 95,056社 | 3.6% | 602社 | 2.0% | |
2月 | 176,848社 | 6.6% | 160,690社 | 6.8% | 175,585社 | 6.7% | 1,263社 | 4.2% | |
3月 | 509,802社 | 19.1% | 432,733社 | 18.3% | 493,480社 | 18.7% | 16,322社 | 54.9% | |
合計 | 2,662,334社 | 100.0% | 2,362,854社 | 100.0% | 2,632,599社 | 100.0% | 29,735社 | 100.0% | |
年2回決算 | 4月/10月 | 1,833社 | 8.8% | 1,680社 | 9.0% | 1,806社 | 8.9% | 27社 | 5.6% |
5月/11月 | 1,833社 | 8.8% | 1,672社 | 8.9% | 1,807社 | 8.9% | 26社 | 5.4% | |
6月/12月 | 4,242社 | 20.4% | 3,856社 | 20.6% | 4,112社 | 20.2% | 130社 | 26.9% | |
7月/1月 | 2,460社 | 11.8% | 2,230社 | 11.9% | 2,418社 | 11.9% | 42社 | 8.7% | |
8月/2月 | 3,402社 | 16.3% | 3,084社 | 16.5% | 3,352社 | 16.5% | 50社 | 10.3% | |
9月/3月 | 7,072社 | 33.9% | 6,222社 | 33.2% | 6,863社 | 33.7% | 209社 | 43.2% | |
合計 | 20,842社 | 100.0% | 18,744社 | 100.0% | 20,358社 | 100.0% | 484社 | 100.0% |
出典:国税庁統計データ
考察
全体
- 1番人気:3月決算:19.1%
- 2番人気:9月決算:10.9%
- 3番人気:12月決算:10.1%
資本金1000万円以下
- 1番人気:3月決算:18.3%
- 2番人気:9月決算:10.9%
- 3番人気:12月決算:10.1%
資本金1億円以上
- 1番人気:3月決算:54.0%
- 2番人気:12月決算:16.1%
- 3番人気:9月決算:6.0%
- 資本金が大きいほど、3月決算の割合が多い
- 資本金が小さいほど、決算月の分布が均等
- 年2回決算を選択しているのは、全体の0.77%
となっているのです。
3月決算が多い理由は
- 国の決算期が3月であること
- 税制の改正、法律の改正などが4月1日から変わること
- 学校も3月末で終わること
- 上場企業や大企業に3月決算が多く、取引の上で合わせるため
- 3月決算しかないと思い込んでいる方も多い
などが挙げられます。
とくに大企業になればなるほど、「新卒の採用」や「国の制度改正への対応」「他の大企業との兼ね合い」で3月決算を選択する会社が多く、資本金が1億円以上の会社の半数は「3月決算」を選択しているのでsう。
9月決算が多い理由は
- 3月決算の会社にとっての中間期であること
が理由です。
12月決算が多い理由は
- 個人事業主の事業年度は1月1日~12月31日と決まっているので法人成りしてそのまま引き継ぐケース
- 海外の企業の事業年度は12月決算がメジャーですので、海外企業に合わせるケース
- 1月1日~12月31日という1年に合わせた方がわかりやすい
という理由があります。
会社設立時に提出する「法人の設立等に関する届出書」に事業年度を記載しなければなりません。また、定款にも事業年度を記載している会社がほどんとですので、会社設立時には決めておく必要があるのです。
起業経験者が解説する決算期・決算月・事業年度を決める際に本当に重視すべきことについて解説します。
起業経験者が解説する決算期・決算月・事業年度を決める際に本当に重視すべきこと
ポイントその1.「消費税の免税」が重要
筆者が起業を経験して思うのは
一般的な決算期の決め方で言われているような
- 売上の大きい月を決算月にしない
- キャッシュが不足する月を避ける
- 繁忙期を決算月にしない
- 棚卸資産・在庫が多い月は避ける
・・・
というような「決算期の決め方」は、どうでもいいと感じています。
理由は
- 決算期は、いつでも変えられること
- 起業時に資金繰りの不足、繁忙期・閑散期、在庫の多い月など正確にわからない
という点が挙げられます。
決算期というのは
株主総会で承認を得て
税務署に「異動届出書」を提出すれば
変更することができます。
起業時には
- 資金繰りの不足する月
- 繁忙期
- 閑散期
- 在庫の多い月
・・・
などは、ぼんやり想定することができても、実際経験してみないことには、想定が当たっているのかはわかりません。
だとすれば
- 売上の大きい月を決算月にしない
- キャッシュが不足する月を避ける
- 繁忙期を決算月にしない
- 棚卸資産・在庫が多い月は避ける
は気にせずに決算期を決めて「実績ができてから、それに即して決算期を変更すれば済む」のです。
だとすれば、起業時に重視すべきは「消費税の免税」です。
消費税の免税とは
納税義務の免除
消費税では、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除されます。
この納税の義務が免除される事業者(以下「免税事業者」といいます。)となるか否かを判定する基準期間における課税売上高とは、個人事業者の場合は原則として前々年の課税売上高のことをいい、法人の場合は原則として前々事業年度の課税売上高のことをいいます。なお、基準期間が1年でない法人の場合は、原則として、1年相当に換算した金額により判定することとされています。具体的には、基準期間中の課税売上高を、基準期間に含まれる事業年度の月数で割った額に12を掛けて計算した金額により判定します。
課税売上高は、輸出などの免税取引を含め、返品、値引き、割戻しをした対価の返還等の金額を差し引いた額(税抜き)です。
なお、基準期間において免税事業者であった場合には、その基準期間中の課税売上高には、消費税が含まれていませんから、基準期間における課税売上高を計算するときには税抜きの処理は行いません。
新たに設立された法人については、設立1期目及び2期目の基準期間はありませんので、原則として納税義務が免除されます。
しかし、基準期間のない事業年度であってもその事業年度の開始の日における資本金の額又は出資の金額が、1,000万円以上である場合や特定新規設立法人に該当する場合は、納税義務は免除されません。
平成25年1月1日以後に開始する年又は事業年度については、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても特定期間(※)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、当課税期間から課税事業者となります。なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することもできます。
※特定期間とは、個人事業者の場合は、その年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいい、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいいます。
出典:国税庁
簡単に言うと・・・
- 資本金が1,000万円未満の新設会社は、設立1期目の消費税は免除される
- 資本金が1,000万円未満の新設会社は、設立6カ月以内の売上、もしくは給料が1,000万円以下なら2期目の消費税も免除される
- 資本金が1,000万円未満の新設会社は、設立6カ月以内の売上、もしくは給料が1,000万円を超えても、1期目が7カ月以下であれば2期目の消費税も免除される
ということを意味しています。
会社経営において
「消費税が免税されるかどうか?」
は、かなり大きなインパクトがあります。
筆者の場合
1期目、2期目で約5,000万円(税別)の売上(ほぼコスト無し)
という状態だったのですが
消費税8%があるので入金されたのは5,400万円(税込)です。
- 消費税の免税事業者でなければ → 約400万円の消費税の納税が発生します。
- 消費税の免税事業者だったので → 消費税の納税は不要でした。
消費税の免税事業者だったので「400万円も得をした。」ということになります。
つまり、起業時における「決算期の設定」で重要になるのは
と言えます。
起業当初は、少しでもコストを減らし、利益を積み上げるべきですので、このような考え方をおすすめします。
消費税の免税期間をできるだけ長くとるためにいつを決算期にすれば良いのか?
設立6カ月以内の売上、もしくは給料が1,000万円以下と予想される場合
1期目、2期目ともに消費税が免税される
→ 1期目が長くなるように事業年度を設定する
例
会社設立日5月1日 → 事業年度 5月1日~4月30日/決算期4月30日
設立6カ月以内の売上、もしくは給料が1,000万円以上になると予想される場合
11期目、2期目ともに消費税が免税される
→ 1期目が7カ月以下になるように事業年度を設定する
例
会社設立日5月1日 → 事業年度 12月1日~11月30日/決算期11月30日
5月1日の7カ月後は、12月1日ですのでその前日を決算期にすれば良いということになります。
資本金が1,000万円未満の中小企業の場合は、この「消費税の免税」をフル活用することを重視すべきです。
この「消費税の免税」を知らずに資本金を1,000万円以上に設定してしまった方で、「消費税の免税」を利用したい方は、資本金額を見直すことも積極的に検討しましょう。
ポイントその2.「税金の支払い時期とキャッシュの関係」が重要
次に意識しなければならないのは「納税時期」です。
という決まりがあります。
- 3月末決算 → 5月末に納税
- 12月末決算 → 2月末に納税
となるのです。
「納税」時に資金がない状態になってしまえば「税金未納」という状態になってしまい、「融資」「資金繰り」にも悪影響を及ぼします。
そうならないためには
必要があるのです。
前述した通りで、これから起業をする会社では「いつ、売上が大きくなるのか?見当もつかないよ。」という方も多いはずです。
その場合には、それほど「納税時期」に囚われて決算期を設定する必要はありませんが「決算期の2カ月後に納税をする」ということを覚えておいて、資金計画、経営計画に反映させましょう。
まとめ
- 「決算」は、1年間の会社の成績を確定させるもの
- 「決算」をする最終日のことを「決算期」
- 「決算期」の翌日から次の「決算期」までの期間を「事業年度」
と言います。
「決算期」は自由に設定することができますが
国税庁のデータを見ると
- 1番人気:3月決算:19.1%
- 2番人気:9月決算:10.9%
- 3番人気:12月決算:10.1%
と、学校や国の事業年度に合わせた「3月決算」を選ぶ会社が多いようです。
起業経験者が解説する決算期・決算月・事業年度を決める際に本当に重視すべきことは
- 消費税の免税期間をできるだけ多く取るように「決算期」を設定する
ということです。
- 売上の大きい月を決算月にしない
- キャッシュが不足する月を避ける
- 繁忙期を決算月にしない
- 棚卸資産・在庫が多い月は避ける
と言っても、実績がないため「いつが繁忙期になるのか?」「いつ資金不足が起こるのか?」は、想像することしかできません。実際が想像通りになる保証はないのです。
だとすれば、金銭的なメリットが大きい「消費税の免税」を最大限活用できる「決算期」設定が望ましいのです。
「決算期」は、いつでも簡単に変更することができますので、事業実績ができて、「消費税の免税」が切れたタイミングで再度見直しをすれば良いだけなのです。
「会社の決算期は、どうやって決めるのが良いのでしょうか?」