起業時に定款で設定する「発行可能株式総数」の決め方とは?

man
「定款を作るときに必要な発行可能株式総数って何?」
「一般的な会社の場合は、発行可能株式総数はどのくらいに設定しておくべきものなの?」

定款を作成する際に設定すべきものに「発行可能株式総数」というものがあります。しかし、ほとんどの起業する方は、「発行可能株式総数」についての知識が不足しているために、どう設定すれば良いのか見当もつかないようです。

今回は、起業時に定款で設定する「発行可能株式総数」の決め方について解説します。

「発行可能株式総数」とは?

「発行可能株式総数」とは

設立する会社が発行できる株式の最大数(上限)のこと

を言います。

  • A社は、発行可能株式総数1万株
  • B社は、発行可能株式総数1000株
  • C社は、発行可能株式総数50株
    ・・・

と会社によって「発行可能株式総数」は異なるのです。

「発行可能株式総数」を決める前に決定しておくべきこと

「発行可能株式総数」を決める前に決定しておくべきことは

  1. 資本金額
  2. 一株当たりの金額
  3. 株式数

です。

「資本金額」とは

会社を経営するうえでの当面の運転資金のこと

「一株当たりの金額」とは

会社が発行する株の一株当たりの金額のこと

「株式数」とは

会社が発行する株式の総数のこと

です。

「資本金額」の決め方は下記を参考にしてください。

「資本金額」が決まれば「一株当たりの金額」と「株式数」は以下の公式で決定することができます。

「資本金額」 = 「一株当たりの金額」 × 「株式数」

です。

「一株当たりの金額」は自由に設定することができますので

例えば、資本金を1000万円とする場合には

  • 一株当たりの金額:1円 × 株式数:1000万株
  • 一株当たりの金額:100円 × 株式数:10万株
  • 一株当たりの金額:1万円 × 株式数:1000株
  • 一株当たりの金額:5万円 × 株式数:200株
  • 一株当たりの金額:10万円 × 株式数:100株
  • 一株当たりの金額:1000万円 × 株式数:1株
    ・・・

と、どんなパターンを選んでも良いのです。

しかし、現実的には

例えば

一株当たりの金額:1000万円 × 株式数:1株

としてしまうと、「100万円だけ増資したい。」というときに1株単位の価格が調整できなくなってしまいます。

そのため、一般的には

  • 昔の一株当たりの金額である「5万円」
  • 計算のしやすい一株当たりの金額「1万円」

が主流となっています。

「一株当たりの金額」と「株式数」に大きなこだわりがないのであれば

  • 「一株当たりの金額」:1万円
  • 「株式数」:「資本金額」/1万円

と設定しておけば良いでしょう。

定款には

  • 資本金額 → 記載が必要
  • 一株当たりの金額 → 記載が不要
  • 株式数 → 記載が必要

となっています。

「発行可能株式総数」を決める理由とは?

  1. 資本金額
  2. 一株当たりの金額
  3. 株式数

が決まれば

  • 発行可能株式総数(設立する会社が発行できる株式の最大数)

を決めることができます。

例えば

資本金額:1,000万円
一株当たりの金額:1万円
株式数:1,000株

と決まれば

man
「じゃあ、発行可能株式総数は、10倍の10,000株までにしようか。」

と、発行可能株式総数も決めることができるのです。

しかし、なぜ、設立する会社が発行できる株式の最大数を決めなければならないのでしょうか?

その理由は「既存株主の保護のため」です。

株式会社は、いろいろな形で資金調達をすることがあります。

  • 銀行融資
  • 公的機関からの融資
  • ベンチャーキャピタルからの出資
  • エンジェルからの出資
  • 資産の売却
    ・・・

など、様々な方法がありますが、その中で「出資」という資金調達方法があります。

teacher

出資は、返済不要の資金調達方法であり、借入とは違って、会社が倒産したとしても、返済義務は発生しません。

その代わりに新株を発行して、株を購入してもらう必要が出てきます。

出資のデメリットは、既存株主の持ち株比率が薄まることなのです。

例えば

Aさんが

  • 資本金額:1,000万円
  • 一株当たりの金額:5万円
    株式数:200株

という会社を起業して、その後、Bさんから第三者割当増資による資金調達を行った場合のシミュレーションはこうなります。

起業直後
株主 株式数 株価 資本金 持ち株比率
既存株主:A 200株 50,000円 1,000万円 100.0%
株価はそのままで500万円の増資を行う場合
株主 株式数 株価 資本金 持ち株比率
既存株主:A 200株 50,000円 1,000万円 66.7%
新規株主:B 100株 50,000円 500万円 33.3%
合計 300株 50,000円 1,500万円 100.0%
株価はそのままで2,000万円の増資を行う場合
株主 株式数 株価 資本金 持ち株比率
既存株主:A 200株 50,000円 1,000万円 33.3%
新規株主:B 400株 50,000円 2,000万円 66.7%
合計 600株 50,000円 3,000万円 100.0%

Aさんの持ち株比率は

  • 起業直後:100.0%
  • 500万円の第三者割当増資:66.7%
  • 2000万円の第三者割当増資:33.3%

と減ってしまいます。

man
「持ち株比率が減ると何が起こるの?」
teacher
会社は株主のものですから、会社の方針を決める議決権は、株式の出資割合によって決まってきます。
普通決議

出席した株主の議決権の過半数(50%)を持って表決される

  • 役員の選任・解任・報酬決定
  • 配当金の決定
  • 決算報告の承認
特別決議

出席した株主の議決権の3分の2以上(66.7%)を持って表決される

  • 資本金の減少
  • 定款の変更
  • 事業の譲渡や譲受の決定
  • 解散

ざっくばらんに言えば

会社を起業した経営者であるAさんの持ち株比率が100%の状態であれば
  • 自分の給料(役員報酬)をいくらに設定しても、自分の自由です。
  • 株主でもある自分に配当金をいくら出しても、自分の自由です。
  • 誰を役員にしても、自分の自由です。
  • 事業を売却するのも、自分の自由です。
  • 会社を辞めるのも、自分の自由です。
しかし、前述したシミュレーションのように2000万円の第三者割当増資をして、Aさんの持ち株比率が33.3%まで薄まってしまえば
  • 自分の給料(役員報酬)は自分だけでは決められません。(株式総会で議決権の50%以上の出席株主の同意が必要)
  • 株主に出す配当金は自分だけでは決められません。(株式総会で議決権の50%以上の出席株主
  • の同意が必要)
    事業を売却するのも自分だけでは決められません。(株式総会で議決権の50%以上の出席株主の同意が必要)
    ・・・

持ち株比率が下がれば下がるほど、会社経営を自由に行う権利が失われる

ということを意味しています。

「出資」という資金調達方法には

  • 返済しないで良い
  • 出資元が企業の場合、経営に参画してくれる可能性が高い
  • 出資元がベンチャーキャピタルの場合、経営のサポートをしてくれる可能性が高い
    ・・・

というメリットがある一方で

  • 会社の経営権が薄まる

という大きなデメリットもあるのです。

だからこそ、

既存株主にとっては、「この会社は、どのくらい自分の持ち株比率が薄まる可能性があるのか?」あらかじめ決めておく必要があるのです。
  • 資本金額:1,000万円
  • 一株当たりの金額:5万円
  • 株式数:200株

の会社で

  • 発行可能株式総数:200株

であれば

株式数 = 発行可能株式総数

ですので、何があっても、自分が株を売却しない限りは、持ち株比率が薄まるリスクはありません。

しかし、反面、「増資」という資金調達方法を選択することができなくなってしまいます。

一方

  • 発行可能株式総数:20,000株

であれば

株式数 = 発行可能株式総数 / 100

ですので、最大限増資をした場合、自分の持ち株比率は1%になってしまうのです。

持ち株比率が薄まるリスクがあるものの、いつでも取締役会の承認で「増資」による資金調達ができるメリットがあります。

会社は、定款で「発行可能株式総数」を定めておくことで

「増資」による資金調達が必要になった時でも、通常必要な「株主総会決議」を経ることなく、「取締役会決議」をもって、その上限まで株式を発行することができます。

  • 取締役の判断で「発行可能株式総数」までは増資ができる
    (株主の意向とは関係なく、「発行可能株式総数」までは増資ができる)

ということです。

まとめると

「発行可能株式総数」を決める理由には

  1. 既存株主の持ち株比率が薄まるリスクをあらかじめ限定しておくため
  2. 取締役会の判断で増資ができる資金繰りの機動性を確保しておくため

という2つの理由があるのです。

「発行可能株式総数」の決め方

特別な事情がなければ、10倍に設定しておけば良い

前述した通り「発行可能株式総数」というのは

  1. 既存株主の持ち株比率が薄まるリスクを制限するためのもの
  2. 取締役会の判断で増資ができる資金繰りの機動性を確保するもの

です。

しかし、現実的に起業直後の会社であれば

  • 経営者が株主であるオーナー企業
  • 取締役会なし

というケースがほとんどです。

この状態であれば

  • 資金調達方法に「出資」を選択することは少なく、「借入」がほとんど
  • 資本金を増やしてしまうと、消費税の免税、法人住民税が安いなどの中小企業のメリットが失われる
  • 増資をするとしても、100%株主であり、役員である経営者が判断できる
  • 定款の変更(発行可能株式総数の変更)も、100%株主であり、役員である経営者であれば簡単にできる

のですから

「増資」のうま味はほとんどなく、「発行可能株式総数」は意味を持たないのです。

だからこそ、完全に「増資」の可能性を排除するのでもなく、無制限に持ち株比率が薄まるリスクを取るわけでもない「10倍」という倍率で、「発行可能株式総数」を決めるのが一般的なのです。

発行可能株式総数 = 株式数 × 10倍
  • 資本金額:1,000万円
  • 一株当たりの金額:5万円
  • 株式数:200株

という会社であれば

  • 発行可能株式総数 = 200株 × 10倍 = 2,000株

ということになります。

特別な事情がある場合は、慎重に発行可能株式総数を決める必要がある

  • 複数名で起業する場合
  • はじめから「出資」を受けて起業する場合
  • 多額の設備投資が必要なため「増資」する見込が高い場合
  • 持ち株比率が薄まるリスクを絶対に取りたくない場合

など、特別な事情がある場合は、慎重に発行可能株式総数を決める必要があります。

一緒に起業するメンバーや増資を引き受けてくれる第三者、出資元など、いろいろなステークホルダーと協議を重ねて、発行可能株式総数を決めましょう。

発行可能株式総数の倍率を低くすれば
  • 持ち株比率が薄まるリスクが小さくなる(既存株主の保護が強化される)
  • 資金調達の機動力が弱まる(取締役会の判断でできる増資可能額が小さくなる)
発行可能株式総数の倍率を大きくすれば
  • 持ち株比率が薄まるリスクが多きくなる(既存株主の保護が薄まる)
  • 資金調達の機動力が強まる(取締役会の判断でできる増資可能額が大きくなる)

公開会社(上場企業)の場合は、発行可能株式総数は株式数の4倍までに制限される

公開会社(上場企業)では

第113条

  1. 株式会社は、定款を変更して発行可能株式総数についての定めを廃止することができない。
  2. 定款を変更して発行可能株式総数を減少するときは、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数を下ることができない。
  3. 定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
  4. 新株予約権(第236条第1項第四号の期間の初日が到来していないものを除く。)の新株予約権者が第282条の規定により取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(w:自己株式(株式会社が有する自己の株式をいう。以下同じ。)を除く。)の総数を控除して得た数を超えてはならない。

となっているため、発行可能株式総数の倍率は4倍が最大になってきます。

teacher
上場すると、個人投資家が公開会社の株を自由に売買することができるようになるため、個人投資家の保護として、倍率が4倍と小さく抑えられているのです。こちらも、起業直後の会社にはあまり関係がありません。

まとめ

「発行可能株式総数」とは

設立する会社が発行できる株式の最大数(上限)のことです。

「発行可能株式総数」を決める前に決定すべきことは

  1. 資本金額
  2. 一株当たりの金額
  3. 株式数

です。

「発行可能株式総数」を決める理由はに

  1. 既存株主の持ち株比率が薄まるリスクをあらかじめ限定しておくため
  2. 取締役会の判断で増資ができる資金繰りの機動性を確保しておくため

という2つの理由があります。

ただし、ほとんどの起業直後の会社は

経営者が100%の株式を持つオーナー企業であることが多く

  • 資金調達方法に「出資」を選択することは少なく、「借入」がほとんど
  • 資本金を増やしてしまうと、消費税の免税、法人住民税が安いなどの中小企業のメリットが失われる
  • 増資をするとしても、100%株主であり、役員である経営者が判断できる
  • 定款の変更(発行可能株式総数の変更)も、100%株主であり、役員である経営者であれば簡単にできる

という状況になるため、「発行可能株式総数」に大きな意味はないのです。

そのため、特別な事情がなければ

発行可能株式総数 = 株式数 × 10倍

と決めてしまって、問題はありません。

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