起業を検討している方には、事業計画書(創業計画書)についての知識が不足しているという方も少なくありません。しかし、この「事業計画書(創業計画書)」は起業を成功させる大きな要素となる重要なものなのです。今回は、「起業を成功させる事業計画書(創業計画書)の書き方」について解説します。
起業経験者が感じる事業計画書(創業計画書)の役割
経営者が自分の事業について理解するために使う
起業する方は、頭の中にはいろいろな起業アイディアが溢れているはずですが、それを「事業計画書(創業計画書)」という形にすることで「抜け漏れ」を無くし、自分の中での経営計画として、活用できます。
資金調達に利用する
銀行やベンチャーキャピタル、エンジェルなどに事業計画書(創業計画書)を提示することで、出資や融資を引き出すために利用します。
営業に使う
取引先や提携先などは、起業直後の会社のことを知ることはできません。営業や提携先の開拓時などは、「事業計画書(創業計画書)」を用いて、会社のことを理解してもらう必要が出てきます。
社内の経営管理に使う
「事業計画書(創業計画書)」には、損益計算書や資金繰り表も付属して作成するものですから、それを日々達成すべき行動目標として、利用することができます。
社員との経営計画の共有に使う
雇用した従業員に対して「この会社のミッションは何か?」「この会社の敵はどこにいるのか?」「この会社が目指す数値はどうなっているのか?」を落とし込む資料として利用します。
「事業計画書(創業計画書)」というのは
- 経営
- 資金調達
- 営業
- 人事・教育
- 仕入
- 提携
・・・
色々なシチュレーションで利用する、会社経営のベースになる資料なのです。
起業経験者の私の視点でみると・・・
その中でも、最も重要なのは
です。
起業直後の場合は
- それほど大した事業計画書でなくても、日本政策金融公庫から借りられる。
- いきなり落とし込みが必要な人数の雇用をするわけではない。
- 営業用には営業資料を作る。
ので「対外的なもの」という側面よりも
ということの重要性の方が何倍も大きいのです。
違います。
事業計画書のベースは同じだとしても、
- 自分向けであれば、自分にしかわからない言葉を使っても構いませんし、
- 資金調達用であれば、出資者や銀行が知りたい情報を多く盛り込む必要があります。
- 営業用であれば、不都合な情報は隠さなければなりません。
- 社員用であれば、多くの情報を与えすぎることがマイナスの影響を与えることもあります。
結局、起業直後の会社の事業計画書というのは「使用目的」によって微調整をしなければならないものなのです。
だからこそ、まずは
経営を成功させるための「経営者自身のための」事業計画書
を
- 【経営用】事業計画書
それを
- 【資金調達用】事業計画書
- 【営業/提携/仕入れ企業用】事業計画書
- 【従業員用】事業計画書
・・・
と目的に応じて、微調整するものなのです。
まずは
- 経営を成功させるための「経営者自身のための」事業計画書
を作るという意思をもって、事業計画書の作成をするべきです。
この視点を持てば、「書籍にありがちな事業計画書の作り方」と「経営を成功させるための事業計画書」が違うことは理解できるはずです。
経営を成功させるための事業計画書の書き方/手順
手順その1.自分のSWOT分析をする
SWOT分析とは?
- 強み (Strengths)
- 弱み (Weaknesses)
- 機会 (Opportunities)
- 脅威 (Threats)
の4つのカテゴリで、現在の経営状態(起業前の経営者の状態)を分類して、て「どのような経営戦略(事業戦略)を立てるのか?」を決定するフレームワークのことです。
例えば
「強み (Strengths)」であれば
- 前職で営業をやっていたので、100人強の顧客リストがあり、そのうちの20名程度はプレ営業している
- ウェブデザインのデザインのクオリティはそこらへんのデザイナーには負けない。受賞歴もある
「弱み (Weaknesses)」であれば
- 前職ではシステム周りは社内のエンジニアに任せていたため、自分には知識がない
「機会 (Opportunities)」であれば
- スマホ利用者の割合が50%を超えはじめて、ウェブよりもスマホ重視に変わってきている
「脅威 (Threats)」であれば
- 簡単にウェブサイトを作れる無料サービスが台頭している
というように経営者自身の強み(すでに起業している場合にはその時点の会社の強み)や弱み、機会、脅威を挙げていきます。
その4つのカテゴリを書き出せるだけ書き出したら、掛け合わせて戦略を構築します。
- 【強み】 + 【機会】 → 積極的に投資すべき「積極戦略」
- 【強み】 + 【脅威】 → 脅威に打ち勝つ「差別化戦略」
- 【弱み】 + 【機会】 → 弱みを小さくする「改善戦略」
- 【弱み】 + 【脅威】 → 脅威から守る「防衛戦略」
例えば
【強み】 + 【機会】 → 積極的に投資すべき「積極戦略」
デザインのクオリティのクオリティに自信がある
+
ウェブよりもスマホ重視に変わってきている
→ スマホ向けの高クオリティなデザイン会社として売り出す
【弱み】 + 【脅威】 → 脅威から守る「防衛戦略」
システムに関する知識はない
+
簡単にウェブサイトを作れる無料サービスが台頭
→ 無料サイトとのデザインクオリティの質を「集客効果」などの数値面で明らかにし、自社サービスの優位性を構築する
というような形で書き出していくのです。
起業を検討している方であれば、ある程度は頭の中に思い描いていることがあるかと思いますが
SWOT分析をすることで
- 「なぜ、ビジネスモデルをこうしようと思うようになったか?」がクリアになる
- 自社の強み、弱みを再認識できる。
- 今まで気づいていなかった強み、弱みを再発見できる。
- 新しいアイディア、戦略が生まれる
という効果があるのです。
経営者が「こういう会社にしたい。」と考えているイメージというのが
「強み」「弱み」「機会」「脅威」というカテゴリによって、わかりやすく整理されるので、事業アイディアが洗練されていくのです。
手順その2.事業概要を決める
「何をしたいのか?」がSWOT分析で明確になったら
- 事業内容のアイディア
- 事業ドメイン
- 事業コンセプト
- 顧客ターゲット
を決めます。
前述の例であれば
事業内容/事業コンセプト
スマホ専用のウェブサイト制作会社として、「結果の出る」スマホデザインを提供する
事業ドメイン
デザイン会社
顧客ターゲット
飲食店オーナー、化粧品メーカー、人材紹介会社など「若者顧客重視」「デザイン性で売上に大きく影響がある」事業会社がターゲット
というように具体的に落とし込んでいきます。
手順その3.競合他社「敵」を徹底的に調べる
- 同じ業態の会社は、どのくらいあるのか?
- 同じ業態の会社の「売上」「利益」などの財務状況はどうなっているのか?
- 同じ業態の会社の企業規模は?
- 同じ業態の会社の営業・販売手法は?
- 同じ業態の会社のサービス内容は?
・・・
を徹底的に洗い出します。
よくある質問が・・・
「どれだけ競合他社がいるのかなんてわからないよ。」
というものですが
- 帝国データバンクを利用する
- 上場企業のIR情報を調査する
- 公告情報を調査する
- 知人・友人に聞く
- ターゲット顧客に聞く
- 書籍を調べる
・・・
方法は色々ある中で、徹底的に探そうとしていないだけです。
競合他社全社の財務状況はわからなくても、わかる会社の情報を抑えていけば良いのです。
「競合調査」だけは手を抜いてはいけない部分です。
重要なポイント
競合はいた方が良い
と考えてしまう方も多いようです。
しかし、これは逆です。
- 誰もやっていないビジネスモデル → 成功例がなく、成功させるのが至難の業
- 誰かがやっていて継続されているビジネスモデル → 利益が出ているから成功している。成立しやすい
ということになるので
競合他社がやっているビジネスモデルの方が良い
のです。
「誰もやっていないビジネスモデル」の方が爆発的に成長するポテンシャルは秘めていますが・・・
「成功しないから、誰もやっていない。」(もしかしたら、誰かは挑戦したけど挫折した。)可能性も高く、成功難易度が極端に高くなってしまうのです。
多くの起業を目指す方が「画期的なビジネスモデル」を考えているはずですが・・・
現実問題は
- 誰もやっていない画期的なビジネス
よりも
- 誰かがやっているありふれているビジネスモデルをちょっとだけ独自に変える
方が格段に成功率は上がるのです。
「市場調査」も同時に行う
事業計画によく出てくる「市場調査」も同時に行ってしまいましょう。
重要度で言えば
です。
ベンチャーキャピタルから何億という出資を受けて起業する方は別ですが・・・
一般的に1人、2人で起業しようとしている方の場合は
- 市場が大きいか小さいか?
- 市場が伸びているか?縮小しているのか?
というマクロなことよりも、
- 競合他社が儲かっているのか?
というミクロなことの方が重要です。
競合他社が儲かっていれば、自分も儲かる可能性が高いからです。
手順その4.競合他社「敵」にどうやって勝つかを考える
自社の「強み」「弱み」がわかって
競合他社の「現状」がわかったら
「どうやって勝つか?」を今一度考えるべきです。
中国のことわざにある
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず 」
です。
競合他社がいるということは、ビジネスモデルとして成立することはわかっているので、あとは「どう勝つか?」です。
- 価格を安くして、勝つ
- 商品のクオリティを上げて、勝つ
- よりニッチなターゲットに絞って、専門性を上げて、勝つ
- 別の付加価値を作って、勝つ
- 結果をコミットして、勝つ
・・・
色々な方法がありますが
ビジネスモデルという意味では、競合他社がいた方が成功する確率は上がるのですが
競合他社に勝つためには「競合他社がやっていないことをする」必要があるのです。
「競合他社との差別化戦略」という形で事業計画に盛り込みましょう。
重要なポイント
調査の結果、事業内容を見直すのはあり
競合他社の調査、競合他社にどう勝つのか?を検討したタイミングで、事業内容を見直したいケースも出てきます。
当然、どんどんさかのぼって見直しましょう。
手順その5.商品、サービスの策定
起業を検討する段階で、はじめから「何を売るのか?」は決まっていると思いますが・・・
- 競合他社の状況
- 競合他社に何で勝つのか?
を調査した上で、今一度販売する商品やサービスのスペックを決めていきます。
- 商品内容
- 販売価格
- 原価(仕入れ価格)
- 生産量
- 他社との違い
- 販売のための工夫
を決めていきます。
商品を生産する、サービスを提供する過程で必要なもの、コスト、課題なども洗い出しておきます。
- 特定の仕入れ先を開拓しないと販売できない
- 生産するためには設備が必要
- サービスを上記の基準で販売するには、5年以上の経験がある方の採用が必須
・・・
などです。
その課題をクリアする方法も記載しておく必要があります。
手順その6.プロモーション計画・営業計画の策定
「何を売るのか?」が決まったら、「どう売るのか?」です。
営業をして売るのであれば
- 営業人員は何人か?
- 1日何件アポイントを取るのか?
- 1日何件訪問するのか?
- 1日何件商談するのか?
- 何件の商談で何件の受注を見込むのか?
- 受注した顧客はどのくらいの確率でリピートするのか?
・・・
数値を決めていきます。
プロモーションで売るのであれば
- どんなプロモーション手法を取るのか?
- どんな媒体を利用するのか?
- WEB媒体では、どのくらいのアクセスを予定するのか?
- アクセスした人の何%が販売ページを見るのか?
- 販売ページを見たかの何%が問い合わせや資料請求、購入につながるのか?
- 購入者の客単価はいくらか?
- 購入者の何%がリピートするのか?
・・・
数値を決めていきます。
重要なポイント
「プランB」をたくさん用意しておく
起業直後に作った販売計画・営業計画がその通りに進むことはまずありません。
そんなに甘くないのです。
だからこそ、この時点で「プランB」を作ることを心がけましょう。
「プランB」とは
です。
例えば
営業計画で商談化から受注までの割合が10%を見込んでいたが、実際は5%にしかならなかった。
というのであれば、顧客へのDMを実施し、商談化数を2倍にすれば、受注件数は計画通りになります。
というものです。
上記は一つの例ですが、販売計画・営業計画が計画通りに行かなければ、損益計算書も、すべて「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
そうならないためには
「販売計画・営業計画」の主要なポイントでは「プランB」をあらかじめいくつも用意しておく
ことが重要なのです。
手順その7.損益計算書、資金繰り表に落とし込む
- 商品設計
- 販売計画・営業計画
ができれば
数値に落とし込めば「損益計算書」になります。
「売上 = 販売数 × 商品単価」
であり、これに「仕入れ」や「人件費」を入れていけば、「損益計算書」は完成します。
「損益計算書」ができれば
必要な資金がわかり、「資金繰り表」もできるのです。
手順その8.実行するためのマイルストーン/目標を作る
一般的な事業計画書の場合、「損益計算書」「資金繰り表」で終わりですが
今回の事業計画書は
です。
だとすると「損益計算書」「資金繰り表」では不十分なのです。
ここで提案したいのは
- 1週間で達成しなければならない目標数値(KPI)の設定
- 「損益計算書」を実現するために必要なタスク(ToDo)の設定
です。
それよりは
- 1週間に1回経営数値が達成できているかのチェックを行う
ために
- その時点で達成していなければならない目標数値(KPI)
- その時点で達成していなければならないタスク(ToDo)
を「行動計画」として策定しておくと、経営の成功率が格段に上がるのです。
KPIとは
です。
KPIは会社によって異なりますが
起業直後の会社の場合には「受注数」が目標になるケースが多いはずです。
「商談すれば受注できる」という経験則がわかってくれば「受注数」ではなく「商談数」を追いかければ良いですし
「受注は安定してできる」という経験則がわかってくれば「受注数」ではなく「客単価」を追いかければ良いのです。
- 3月2週目のMTG時点で、KPIである「受注数」がこの数字を達成していないといけない
という目標値がわかっていれば、数週間前から「着地見込」を入力していれば「このままだとやばい。未達になってしまう。」ということがわかるので事前に対処できるのです。
- 3月2週目のMTG時点で、営業マンの雇用が終わっていないといけない
というマイルストーンがクリアになっていれば「採用が遅れている」ということを早い段階で察知し、依頼する人材紹介会社を増やすなど、事前の対処ができるのです。
経営者自身が事業計画書を活用するためには
損益計算書
では、わかりにくく、運用もしにくくなってしまうので
- 主要な経営指標を1週間ごとの目標値に分解したもの
- 実行しなければならないタスクを載せたもの
を一つの管理表にして、常に経営者が見える場所に貼っておいて、実績値を入力していけば、結果として損益計算書の目標が達成できるはずです。
重要なポイント
毎週、毎日、行動計画とにらめっこする必要がある
ビジネスの業態によって違いはありますが
日々数値が動くビジネスモデルの場合は
- 毎日、上記のKPIやタスクの達成度を管理する
日々数値が動かないビジネスモデルの場合は
- 毎週、上記のKPIやタスクの達成度を管理する
ことをおすすめします。
毎月、3カ月に1回では「未達」「計画遅れ」に対する対応が後手後手になってしまい、損益計算書の数値が達成できなくなってしまうのです。
週次で追いかけるKPIは、損益計算書よりも1.2倍~1.5倍ぐらいに設定する
不思議なもので
- 売上1億を追いかけると8000万円ぐらいに着地する
- 売上1000万円を追いかけると800万円ぐらいに着地する
・・・
損益計算書の数値をぴったり分解したものを追いかけると、100%日々の週次目標を達成しないと損益計算書の数値が達成しないことになります。
1.2倍~1.5倍ぐらい余裕をもって、週次目標を設定しておくと
8割ぐらいの達成度でも、損益計算書の目標値はクリアすることになります。
まとめ
事業計画書(創業計画書)の役割は
- 経営
- 資金調達
- 営業
- 人事・教育
- 仕入
- 提携
・・・
実際に起業して感じるのは
一番重要な事業計画書(創業計画書)の役割は
経営者自身の頭の中を整理して、日々の行動管理に使う。
という役割です。
そのことを重視した事業計画書(創業計画書)の作り方は
- 手順その1.自分のSWOT分析をする
- 手順その2.事業概要を決める
- 手順その3.競合他社「敵」を徹底的に調べる
- 手順その4.競合他社「敵」にどうやって勝つかを考える
- 手順その5.商品、サービスの策定
- 手順その6.プロモーション計画・営業計画の策定
- 手順その7.損益計算書、資金繰り表に落とし込む
- 手順その8.実行するためのマイルストーン/目標を作る
という手順に従うと良いでしょう。
一般的な事業計画書(創業計画書)と比較すると抜け漏れがあるかもしれませんが・・・
重要なのは
- 自分の強み・弱みを正確に理解すること
- 敵を理解すること
- 敵にどう勝つか?を考え抜くこと
- それを実現するための行動計画を策定すること
- 行動計画を日々の業務の中で追いかけ続けること
なのです。
自分用の事業計画書(創業計画書)ができてから
- 資金調達用
- 営業用
- 従業員用
と用途に合わせて、体裁を整えたり、強調すべき部分を変えたり、情報を隠したり、すべきです。
「創業計画書がないと起業ってできないの?」
・・・