はじめての起業を検討している方にとっては「会社設立までの手順を詳しく知りたい。」というのは、当然のことだと思われます。今回は、漏れなく、一つ一つの会社設立までの手順を解説していきたいと思います。
目次
手順その1.会社の概要を決める
会社を設立する前に重要なのは
「どのような会社を作るのか?」
です。
会社にも、いろいろな会社の種類があり、資本金や会社名、取締役会の設置、許認可の有無から、事業計画、資金計画・・・に至るまで、様々なことを決めていかなければなりません。
1.会社のタイプを決める
会社にはいろいろなタイプがあります。
会社のタイプ | 株式会社 | 合同会社 | 合名会社 | 合資会社 |
---|---|---|---|---|
公開性 | 公開会社/非公開会社 | 非公開会社 | 非公開会社 | 非公開会社 |
定款の認証 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
最低出資者数 | 1人 | 1人 | 1人 | 2人 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 無限責任 | 有限責任/無限責任 |
役員の任期 | 最長10年 | 無期限 | 無期限 | 無期限 |
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会/出資者総会 | 社員総会/出資者総会 | 社員総会/出資者総会 |
特徴 | 9割以上が株式会社を選ぶ。一般的な会社のタイプ | 近年、利用する方が増加している会社のタイプ | ほとんど利用はありません。 | ほとんど利用はありません。 |
メリット | ・対外的な信頼性が高い ・一般的な会社のタイプ | ・定款の認証が不要な分、安く設立できる ・役員の任期が無期限 ・利益の配分がしやすい | - | - |
デメリット | ・定款の認証が必要 ・役員の任期に10年という期限がある ・利益の配分がしにくい | ・社員が意思決定権を持つので、社員の意思に相違が出てくるとトラブルが大きくなる ・対外的な信頼性が低い | - | - |
定款費用 | 定款認証 50,000円 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) | 印紙税 40,000円 (電子定款:0円) |
登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 | 60,000円 | 60,000円 |
会社実印等 | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) | 10,000円 (電子定款:+10,000円) |
大きな選択肢としては「株式会社」と「合同会社」という形になりますが
- 将来的に会社の規模を拡大したい方
- 法人相手の取引が多い方
→ 「株式会社」がおすすめ
- 会社設立コストを抑えたい方
- 信頼できるパートナー数名と小規模の事業を展開したい方
→ 「合同会社」がおすすめ
となります。
2.許認可の有無を確認する
会社を作るときに注意しておく必要があるのは
「起業する会社のビジネスが許認可を必要とするものかどうか?」
です。
- 飲食店 → 食品営業許可(保健所)
- 建設業 → 建設業許可(都道府県)
- リサイクルショップ → 古物商許可(警察署)
- 不動産会社 → 宅地建物取引業免許(都道府県)
・・・
と許認可がなければ、営業することができない業種があるのです。
3.事業計画を作る
事業計画がなければ、会社経営ができません。
まれに事業計画なしで起業する方もいますが、事業計画を決めておかなければ、「どこに会社が向かっているのか?」「どこに会社が向かうべきなのか?」、地図を持たずに冒険に出るようなものです。
事業計画書の作成が必要になります。
事業計画書の内容
- 事業の目的
- 市場環境
- 事業内容
- 顧客ターゲット
- 経営計画(PL)
- 課題と対策
- 資金計画
4.資金計画を作る
資金計画は事業計画の一部ですが、その中でも重要なものです。
- 運転資金(家賃、人件費、仕入れ費用など)
- 設備資金(設備、会社設立費など)
でいくら必要なのか?
その資金をどうやって調達するのか?
- 自己資金
- 公的融資(日本政策金融公庫)
- 銀行融資(信用保証協会の保証付融資)
- 親や兄弟、親戚
- 出資(ベンチャーキャピタル、取引先企業)
・・・
などを計画しなければなりません。
5.資本金を決める
資金計画の段階で必要な「資本金」が決まってくるかと思います。
このときのポイントとしては、資本金によって税金が変わってくるということです。
道府県民税(標準税率)
- 資本金1,000万円以下 → 20,000円
- 資本金1,000万円超 → 50,000円
市町村民税(標準税率)
- 資本金1,000万円以下(従業員50名以下) → 50,000円
- 資本金1,000万円以下(従業員50名超 ) → 120,000円
- 資本金1,000万円超 (従業員50名以下) → 130,000円
- 資本金1,000万円超 (従業員50名超 ) → 150,000円
消費税
- 資本金1,000万円未満 → 1期目、2期目は消費税の免税事業者(3期目は1期目、2期目の売上次第)
手順その2.必要なものを準備する
1.印鑑を作る
会社設立において、必要になるのは「印鑑」です。いろいろな書類に証明として「捺印」することになるため、早い段階で「印鑑を作る」必要があります。
会社設立で必要な印鑑の種類
- 代表者印 → 法務局に届け出る実印
- 銀行印 → 金融機関に届け出る印鑑
- 社判(角印) → 会社の認印
その他、作っておいた方が便利な印鑑
- ゴム印 → 会社の名称や所在地、代表者名などの印鑑(契約書などで利用)
2.会社設立資金を用意する
会社設立は無料でできるものではありません。
資本金
- 1円~
定款にかかわる費用
- 発起人の印鑑証明書:300円 × 人数
- 収入印紙代:0円(電子定款) or 4万円
- 定款印象手数料:5万円
- 謄本交付手数料:250円 × 必要枚数
登記申請に係る費用
登録免許税
- 株式会社:資本金の0.7%(下限は15万円)
- 合同会社:資本金の0.7%(下限は6万円)
- 合名会社・合資会社:6万円
司法書士や会計士などに登記申請代行を依頼する場合には
- 代行手数料が発生する
- 顧問契約が条件になる
ため、注意が必要です。自分でできないものではありません。
3.登記する場所/オフィスを決める
「どこに登記するのか?」は、定款作成時に決める必要があるのですが、その前に決めておく必要があります。
- 自宅に登記する
- オフィスを借りる
- レンタルオフィスと契約する
- バーチャルオフィスと契約する
・・・
等、いくつか選択肢がありますが「オフィスを借りる」「レンタルオフィスと契約する」場合には、会社設立前に希望の物件を見つけ、不動産会社と交渉しておく必要があります。
手順その3.定款を作る
1.会社名を決める
会社名は、同じ住所で同じ社名でなければ、登記は受理されます。
ただし、「不正競争防止法」「商標法」によって、商号は保護されてしまうので「他社が商標登録している商号は社名にしない」ことが重要になります。
2.本店所在地を決める
本店所在地は、登記する場所の住所です。
記載方法は
- 「東京都千代田区」 → 最小行政区画までの登録
- 「東京都千代田区〇〇町〇丁目〇番〇号」 → 町名、番地までの登録
の2種類がありますが
3.事業目的を決める
定款では「事業目的」を記載する必要があります。
会社は定款に定めた目的の範囲内で事業を行うことになります。
事業目的の作るポイント
- 将来やる可能性がある事業目的も入れておくこと
- 目的の最後に「上記各号のに附帯関連する一切の業務」と入れること
注意しなければならない点
- 事業目的が多すぎると融資や出資の際に怪しまれる
- 許認可が必要な業種の場合は、事業目的の記載方法を確認しておく
4.会社の機関(株主総会・取締役等)を決める
「機関って何?」
と思う方も多いと思いますが、簡単に言えば
です。
会社法では、下記の機関(株式会社の場合)が定められています。
- 株主総会 = 会社経営の重要事項の意思決定
- 取締役 = 会社の運営を行う
- 取締役会 = 業務にかかわる意思決定を行う
- 監査役 = 取締役の経営が適正化チェックする
- 会計参与 = 決算書の作成を行う
があります。
上記の機関の何を採用するのかは比較的自由に定款で設定することができます。
シンプルな組み合わせ
会社の健全性をアピールできる組み合わせ
株主総会 + 取締役(数名) + 会計参与
公開会社(上場会社)などの規模の大きい会社
となります。
5.資本金、1株当たりの株価、発行可能株式総数を決める
定款では、非公開会社の場合
- 資本金(定款に記載)
- 1株当たりの株価(定款には記載しない)
- 発行可能株式総数(定款に記載)
- 払込株式数(定款に記載)
を自由に決定することができます。
資本金1,000万円で起業する場合には
- 100株 × 10万円
- 10株 × 100万円
- 1株 × 1000万円
どういう組み合わせにしても、問題はありません。同じ資本金1,000万円なのです。
ある程度、1株当たりの株価は少額にしておいた方が、増資はしやすいということだけ注意しておきましょう。
また、発行可能株式総数は、資本金の10倍ぐらいを目安にして設定しておいた方が、増資の余裕ができるのでおすすめです。
例:資本金1,000万円で起業
100株 × 10万円
と設定した場合
発行可能株式総数は10倍の1000株
という決め方になります。
6.事業年度を決める
事業年度というのは、会計(決算)をするための事業期間の区切りのことです。
事業年度は、会社設立時に1年以内であれば自由に決定できます。
例えば
5月1日に会社設立して、事業年度を4月1日~3月31日にすれば
- 1期目:5月1日~3月31日
- 2期目以降:4月1日~3月31日
※3月決算
という事業年度になります。
事業年度を決めるポイント
- 上場企業には3月決算の会社が多いが決まっているわけではない
- 閑散期に事業年度を持ってきた方が本業に影響が少ない
- 税理士や会計士も、閑散期の方が余裕をもって対応してくれる
手順その4.定款の認証を受ける
上記の重要な項目を決定し、定款のテンプレートを利用して、定款を作成すれば、あとは公証役場での「定款認証」に移ります。
認証する場所
本店所在地を管轄する公証役場
持参するもの
- 定款3通
- 発起人全員の実印と印鑑証明書
- 4万円分の収入印紙
- 公証人に支払う手数料
- 定款謄本の交付手数料
3通の定款は
- 公証役場保存用
- 会社保存用
- 法務局で設立登記をするときのもの
で利用します。
電子定款がおすすめ
電子定款を利用すれば、印紙代の4万円分が不要になります。電子定款とは、出力した紙ではなく、PDFファイルなどの電子媒体で定款をオンライン上で提出する方法のことです。ただし、電子定款にも、ソフトウェアのインストールや認証ツールの購入などで多少の支出が発生します。また、電子定款でも、公証役場には行かなければなりません。
手順その5.銀行口座に出資金を払い込む
定款の認証が終わったら、法人用に利用する銀行口座に出資金を払い込みます。
- 出資金の払込証明書:払い込みがあったことを証明する書面
- 払い込み後の通帳のコピー
を製本して、設立登記のための書類とします。
出資金の払い込み時の注意点
まだ会社は設立できていないので、法人名義の口座は作れないので、個人名義で新しい銀行口座を作り、法人用として利用します。既存の個人名義の銀行口座を利用することもできますが、お金の流れが個人と法人で混在してしまうことになるため、新規で口座を開設することをおすすめします。
また、通帳のコピーのところには、出資者の氏名と金額がすべて印字されるように、個人名で入金する必要があります。個人名、出資金が明示される形で通帳をコピーしなければならないのです。
手順その6.登記の必要書類を準備する
登記の必要書類には
- 株式会社設立登記申請書
- 登録免許税納付用台紙
- 定款
- 出資金の払込証明書
- 別紙(登記事項、CD-Rなどの電子媒体)
- 印鑑届出書
- 印鑑証明書(発起人・取締役全員分)
があり、これ以外にも状況に応じて提出すべき書類があります。
用紙の入手や不明点の相談などは、登記申請をする「本店所在地の法務局(登記所)」でできます。
手順その7.設立登記を申請する
設立登記を申請するのは「本店所在地の法務局(登記所)」です。
注意しなければならないのは
設立時取締役による出資金の払い込みや設立手続きが法令や定款に違反していないことの調査完了日、もしくは発起人が定めた日、募集設立の場合には創立総会の開催日から2週間以内に登記申請をする必要がある
ということです。
期限があるため
- 書類がそろっているか?
- 押印漏れがないか?
- 収入印紙が貼られているか?
などを確認した上で、仮に間違えがあっても、修正できる時間の余裕をもって、法務局に行くと良いでしょう。
手順その8.会社設立完了
法務局(登記所)で登記を申請して、問題がなければ「会社設立(登記)完了」です。登記申請から3日後ぐらいには登記が完了します。
申請内容に問題がある場合には「補正」や「却下」されることがありますが、基本的には申請時にある程度、法務局の担当者がチェックしてくれるため、「補正」や「却下」されることはほとんどありません。「補正」の場合は、修正すれば登記が完了します。
会社設立(登記)完了後には
- 登記事項証明書の取得
- 印鑑カードの交付
が可能になります。印鑑カードも必要ですので、作っておきましょう。登記事項証明書は届け出で必要な枚数プラス、数枚の予備を持っておくことをおすすめします。
手順その9.会社設立の届け出をする
会社設立が完了したら終わりではありません。いろいろな行政機関へ会社設立の届け出をする必要があります。
税務署
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
都道府県税事務所、市町村役場
- 法人設立届出書
労働基準監督署
- 労働保険、保険関係成立届
- 労働保険、概算保険料申請書
- 就業規則届
- 時間外労働、休日労働に関する協定書
ハローワーク
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
年金事務所
- 健康保険、厚生年金保険新規適用届
- 健康保険、厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者届
手順その10.会社設立後にやるべきこと
1.法人口座の開設
資本金を払い込んだのは個人名義の銀行口座でしたが、会社を設立したので法人名義の法人口座が開設できるようになります。BtoBの取引などでは、法人名義の法人口座に入金してもらうのが一般的ですので「法人口座は必須」です。
ただし、バーチャルオフィスや固定電話がない法人の場合は、法人口座の開設が困難になってしまいます。個人名が出てこない法人口座は「詐欺」や「反社会的勢力」に利用されることが多いので、会社の実態が確認できない場合、銀行は口座開設をしてくれないのです。
2.法人カードの作成
法人口座ができれば、法人カード(法人用クレジットカード)も作ることができます。近年、法人向けのサービスにも、インターネットサービスが台頭してきているため、会社でクレジットカード決済を利用する機会も少なくありません。年会費無料の法人カードもいくつかあるため、取急ぎ、1枚は法人カードを作っておくと良いでしょう。
3.ウェブサイトの開設
法人口座の審査などでも、会社のウェブサイトの開設が必要になります。定款に記載した事業目的や、事業内容など、完成形である必要はありませんが、必要最低限の情報を用意したウェブサイトを制作しましょう。
4.営業ツールの作成
経営で何よりも、大事なのは「売上」です。「売上」が早く立たなければ、どんどん資金は減ってしまいます。まずは営業ツールの作成に取り掛かって、早い段階で営業をスタートさせることをおすすめします。
まとめ
会社設立の手順は下記になります。
- 手順その1.会社の概要を決める
- 手順その2.必要なものを準備する
- 手順その3.定款を作る
- 手順その4.定款の認証を受ける
- 手順その5.銀行口座に出資金を払い込む
- 手順その6.登記の必要書類を準備する
- 手順その7.設立登記を申請する
- 手順その8.会社設立完了
- 手順その9.会社設立の届け出をする
- 手順その10.会社設立後にやるべきこと
一見、難し感じてしまうかもしれませんが、法務局や公証役場の方も、質問すれば丁寧に教えてくれるので、聞きながらやれば専門家に設立代行を依頼しなくても、問題なくできるはずです。
会社は作ることがゴールではありませんので、会社設立時にも、設立後のことを見据えて、設立する会社の内容を決定する必要があります。
「簡単に手順を解説されても、イメージしにくい。」
「会社を作るステップをもれなく知りたい。」