起業する前の方も、起業した後の社長さんも、同業者や社長仲間で飲みに行けば、こんな話に溢れています。しかし、これらの話を真に受けて、自分が同じことをし始めてしまうと・・・思わぬ落とし穴にはまってしまうことも少なくありません。今回は回避しなければならない「知り合いの社長の誘惑」について解説します。
目次
知り合いの社長は「うまくいっていることしか言わない。」
社長同士での飲み会でも、
起業を考えている方が社長に相談するシチュレーションでも、
基本的に「社長」という人種は「うまくいっていることしか言わない。」ものと考えましょう。
なぜなら、社長は対外的な「メンツ」を重視するからです。
「この社長はやることなすこと成功していて凄いな。」
「この社長は若いのに○○億円も儲けていて凄いな。」
・・・
と思わせておけば、その後ビジネスで取引する上でも、有利になるからです。
ある程度の経営経験がある社長どおしであれば
(また、言ってるよ。)
(それも、ありだよね。)
(でも、リスクもあるけどね。)
と内心思っていても、軽く受け流せるのですが
- 起業を目指している方
- 起業して経営が上手くいっていない方
- 起業して3年経過していない方
・・・
の場合は、真に受けてしまって、思わぬ失敗をしてしまうケースも少なくないのです。
では、「どのような誘惑と、その誘惑に隠された真実は何なのか?」解説していきます。
共同経営の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
隠された真実
共同経営ほど、起業の成功率を下げるものはない。
理由はいくつかあるのですが・・・
最大の理由は「お互いに配慮して、経営方針がぼやけてしまうから。」です。
経営者が自分だけであれば・・・
- 「よし、このサービスは○○という方針で徹底的に突き抜けるぞ。」
と意気込んだら、そのまま、それを全うできます。
しかし、経営者が2名いれば・・・
- 経営者A「よし、このサービスは○○という方針で徹底的に突き抜けるぞ。」
- 経営者B「でも、△△と思う人もいると思うよ、もう少しニーズに合わせようか。」
と意見が割れてしまいます。
どちらも、会社経営に興味があるぐらいですから、自分なりの正解を持っているのですから、「100%相手に譲る」「100%相手に賛同する」ということは、ほとんど起こりえないのです。
結局、多少は配慮してしまうため
- 経営者A「そうか、じゃあ、△△と思う人もカバーできるように機能を増やそう」
というように「妥協の産物」が生み出されてしまう可能性が高いのです。
ですから、「妥協の産物」では到底1位にはならないのです。
あれも、これも、ならコストを掛けられる大企業の商品やサービスにかなうはずがないのです。
- 一緒に友達と起業する
- 一緒に家族と起業する
- 一緒に元同僚と起業する
・・・
精神的には安心できるかも知れませんが、起業後の成功率は下がってしまう可能性が大きいのです。
他にも
- 給料面での対立
- 採用面での対立
- 経費利用の不満
・・・
など。1人なら発生しない余計な問題が往々にして起こるのです。
共同経営者でも成功するパターン
- 経営者Aと経営者Bには圧倒的な力関係があり、どちらかのいうことが絶対になる
- 経営者Aと経営者Bは、完全に職能が異なり、経営に関してはどちらがやるか決まっている
という2パターンです。
スティーブ・ジョブスとスティーブ・ウォズニアックには、圧倒的な力関係があったから、上手くいったのです。
紹介の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
99%の方が「ありがとうざいます。是非お願いします。」と答えるのではないでしょうか。しかし、これも困った問題が発生します。
隠された真実
商品やサービスのことを理解していない方が紹介する人は顧客にならない。時間の無駄
「紹介」といっても、大きく分けて2種類あると思います。
- 実際に自社の商品やサービスを利用してくれている「顧客」が知り合いを紹介してくれるケース
- 飲み会で知り合った社長さんが知り合いを紹介してくれるケース
の2種類です。
- 前者 → 価値のある「紹介」
- 後者 → 時間の無駄な「紹介」
です。
前者 → 価値のある「紹介」
自社の商品やサービスを利用してくれている「顧客」が紹介してくれるのは、本当にその商品やサービスが良いと感じてくれたから、紹介してくれるのであって、実際に自分がその商品やサービスを使っているので「どんな人の役に立つのか?」も理解してくれているのです。
紹介された方のはずれも少なく、売上につながる大切な「紹介」と言っていいでしょう。
後者 → 時間の無駄な「紹介」
一方で、飲み会で知り合った社長さんが、話の流れで
- 「○○さんはどんな会社を経営しているのですか?」
- 「こういうサービスを事業としてやっているんですよ。」
- 「じゃあ、○○業の社長さん紹介してあげようか?」
・・・
という流れで紹介された方というのは
- 「どんな商品やサービスを紹介されるのか?」理解していない。
- 紹介者の義理立てで会っているだけ。
ですので、そもそも自社の商品やサービスを必要としていない可能性が驚くほど高いのです。結局、お互いの紹介者のメンツを立てて、仲良く世間話をして終了になります。
起業直後という時間のない中で、売上にならない紹介された方に会うのは恐ろしく無駄な時間です。
仮に紹介者の義理立てて、商品を購入、利用してくれたとしても、商品やサービスに価値を感じて利用してくれたわけではないので、継続顧客になる可能性もほとんどないのです。
補助金・助成金の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
隠された真実
「補助金・助成金」をもらうために被る損失はかなり大きい!
「補助金・助成金」というのは、
例:創業補助金/中小企業庁
「創業補助金」は、新たな需要や雇用の創出等を促し、我が国経済を活性化させることを目的に、新たに創業する者に対して創業等に要する経費の一部を助成(以下「補助」という。)します。
という趣旨のものです。
そのため、返済しないで良い補助金の場合は審査があり
- 雇用があることが前提
- 画期的な新事業
- 今後の成長が期待できる業界
などでないと審査が通らないのです。
結局
既存技術の転用、隠れた価値の発掘(新技術、設計・デザイン、アイデアの活用等を含む。)を行う新たなビジネスモデルにより、需要や雇用を創出する事業であること。
計画した補助事業の遂行のために新たに従業員を1名以上雇い入れること。
というように条件が設定されているのです。
と思う方もいるかも知れませんが
- 売上もない状態で1名以上の雇用するのはリスクが大きい
- ビジネスモデルが確立されていない新たなビジネスモデルは成功モデルがないのだから失敗しやすい
のです。
この補助金のために、10ページ以上にわたる事業計画を作成し、審査の結果通るかどうかもわからない状態で、新しいビジネスモデルと社員の採用を求められるのです。
そんなことしている時間があったら
別事業の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
隠された真実
「隣の芝生は青く見える」だけ
自分でやりたい事業を明確に定義できていない経営者ほど「俺も、その事業はじめてみようかな。」と思うかと思いますが、よく考えてください。
本当に誰かがやって、その事業を同じように成功できるなら、その社長さんは「その事業が儲かっていること」なんて言うはずがありません。
「競合増やして、自社の売上を減らすだけ」だからです。「百害あって一利なし」です。
こういうことを言う社長さんは、
- 「真似されても、真似されない自信がある。」
- 「すでに美味しくない市場になっている。」
- 「そもそも、上手くいっているというのがウソ。」
- 「何かを売りつけたい。」
・・・
のどれかです。
あなたが遅れて参入したところで
- その会社の詳細のノウハウがわからないから、上手くいかない
- 遅れた参入だから、うまくいかない
- コンサルフィーだけ取られてしまっている
・・・
なんてことになりかねないのです。
手当たり次第に自社の事業ドメインを変えている会社はうまくいくはずがありません。
節税の誘惑
「えっ、税金払ってるの?税金なんて払うのバカだよ。節税しなきゃ。」
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
隠された真実
税金を払わない企業は倒産する確率が高い
合法的な税金対策というのは、簡単に言うと「利益を減らす」ことで税金を減らしているにすぎません。
例えば
その年は税金は発生しませんが、太陽光発電システムで得られる売電収入に対しては、来年以降毎年課税されます。
結局、中古のベンツを買ったとしても、税金を安くしているのではなく、税金の「繰延(くりのべ)」をしているだけなのです。
来年、再来年、それ以降・・・結局同じだけの税金を支払うのです。
さらに大きな落とし穴は「キャッシュがなくなること」です。
節税をするためには
- 中古ベンツを買う
- 太陽光発電システムを買う
・・・
と購入しなければならないのですから、ローンを利用しない限りは、利益から捻出して購入費用を支払う必要があります。ローンを使ったら、利息分マイナスになってしまうため、節税とは程遠い結果となってしまいます。
- キャッシュがなくなる = いざという時の資金不足に対応できなくなる
- キャッシュがなくなる = 攻めたいチャンスで攻めるための資金がなくなる
のですから、倒産の確率が上がってしまうのです。
出張の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
「すごいやり手な社長さんだな。」って思ってしまうのではないでしょうか。
隠された真実
出張はコストパフォーマンスが悪い
海外、国内含めて、出張を繰り返している社長さんがすごく感じるのは必然だと思います。
しかし、出張に行ったことがある方ならわかるかと思いますが
- 都内であれば1日3件商談できたのが
- 大阪なら1日1件商談して後は接待で終わり
ということも少なくありません。
しかし、地方に行けば行くほど、客単価は下がってしまいます。
非常に効率の悪い営業方法なのです。
- 社員数が20名以上いて、新規のエリアを開拓するための「出張」
- 競合他社が東京都と比較してほぼいないから客単価を上げられるという意図での「出張」
- 調査目的の「出張」
であれば、問題ありませんが、日々、日本中を飛び回るような営業手法で出張を繰り返している方は、なかなか売上、ひいては利益がついてこないのです。
出張に憧れる前に、会社のある土地で十分な利益を上げるための活動に力を入れる必要があります。
資金調達の誘惑
と知り合いの社長さんが言っていたら・・・あなたはどう思うでしょうか?
隠された真実
融資は「借金」の感覚をマヒさせる
銀行は、貸し出す先がないから、ある程度事業歴があればすぐに「借りてくれませんか?」と営業にきます。
社長は、いつのころからか
- 「借りられる人」≒「社会的信用力の高い人」≒すごい
- 「借りられるときに借りておくべき」
という会話が成立するようになってきます。
しかし、これは大きな間違えです。「借金」は「借金」だからです。
という流れであれば、まったく問題ありませんが・・・
多くの場合
という流れになってしまい、計画のない投資をすることになり、結果うまくいかないのです。
「銀行から調達している資金額が大きい社長 ≒ 偉い」というのは間違えです。
まとめ
起業の成功率を下げる「知り合いの社長の誘惑」には
- 共同経営の誘惑
- 紹介の誘惑
- 補助金・助成金の誘惑
- 別事業の誘惑
- 節税の誘惑
- 出張の誘惑
- 資金調達の誘惑
などがあります。
社長どおしの会話では「メンツ」が重要なので、悪いことは言わず、良いところだけを言うので、魅力的に感じてしまうのも無理はありませんが、そうそう美味しい話があるわけでもないのです。
「知り合いの社長に聞いたら、補助金で200万円受け取ったんだって。」
「知り合いの社長に聞いたら、経費で高級住宅街に戸建てを建てたらしいよ。」
・・・