会社の起業時は「できるだけコストを抑えたい」、反面「オフィスを借りないとできることが限られてしまう」という2つの要素があり、自宅で起業するべきか?オフィスを借りるべきか?悩んでいる方も多いかと思います。今回は、起業時の事務所について悩む方に、両方の経験者として自宅起業・在宅起業のメリットデメリットを解説します。
目次
自宅兼事務所で起業した筆者の体験談
筆者の場合は
- 起業時の事業内容:ウェブメディア運営
- 立ち上げ時:1名
- 資本金:100万円
- 費用な設備:ノートパソコン
でしたので、ぶっちゃけ「起業する場所はどこでも良かった。」というのが本音です。
その時は実家に住んでいましたので、実家で起業することにしました。
自宅兼事務所で起業した理由
理由その1.資本金が心もとないのでオフィスを借りることはできなかった。
都内にオフィスを借りれば、どんな小さいところでも、月10万円程度のコスト負担になります。
月10万円といっても、敷金、礼金、テーブル、イスなども含めれば、初期費用で50万円ぐらいは見ておく必要があります。
資本金100万円で起業して、起業当初は売上見込は0円ですから、選択肢として「自宅兼事務所で起業するしかなかった。」という状況になります。
理由その2.オフィスの必要性がそれほどなかった。
ウェブメディア事業ですから、ウェブサイトを作れれば良いのです。
- ウェブサイトの作成手段:ノートパソコン
- 取引先との連絡手段:携帯電話
- 打ち合わせをするときは近くのカフェ、ファミレス
で十分でした。
3年ほど、自宅兼事務所で起業してから、オフィスを都内に借りることにしました。
まずは、この3年間で自宅兼事務所で感じた「自宅起業・在宅起業のメリットデメリット」を解説していきます。
自宅起業・在宅起業のメリット
資金ショートの不安が大幅に削減される
受発注型の仕事、例えば、ウェブデザイナーとかであれば、営業して顧客が付けば、起業して1か月後、2か月後にはある程度の売上が計算できます。
この形であれば、いきなりオフィスを借りても、まあなんとかなるレベルだと思います。
しかし、ウェブメディア事業の場合は、サイトを作っても、集客ができなければ半年ぐらいは1円も収入がないのですから、「少しでもコストを抑えて、資金が底を付くのを防ぎたい。」というのが当時の心境です。
その中で
- 家賃は実家なので0円
- 食費・生活費は1日1500円にしたので、月45,000円
であれば、「資本金100万円、22か月、約2年ぐらいは売上0円でも行けるな。」という計算になるので、心理的な不安なく、じっくりビジネスに向き合うことができました。
移動の時間がない
起業直後というのは、経営者は24時間体制でビジネスを構築していくことになります。
筆者の場合は
- 朝6時起き → 夜23時就寝
- 休みなし
- 飲みにもいかない
という生活でしたので、
自宅 → オフィス
オフィス → 自宅
間の移動時間がないことは、大きなメリットだったのです。
移動時間というのは、本を読むこともできるし、考えごとをすることもできる時間という方もいますが、仕事をしていた方が効率的なことは間違えありません。
これも自宅起業の大きなメリットです。移動時間がないことと同時に移動のコスト(交通費)なども不要です。
自宅起業・在宅起業のデメリット
採用ができない
絶対に採用ができないわけではありませんが・・・
当然、「人の家に仕事をしに行くのは嫌だ。」という人がほとんどだと思います。
自宅起業では「採用ができず」、自分1人、もしくは配偶者と2人での仕事が中心になります。
顧客を呼べない
自宅起業の自宅がデザイナーズマンションみたいなもので、打ち合わせスペースも用意できるのであれば別ですが、多くの場合はそうではありませんので、クライアントを打ち合わせに招くことができません。
クライアントというのは、打ち合わせをしに行くときでも、取引先が「どんなオフィスで、どんな仕事をしているのか?」チェックしているものです。
当然、自宅に呼ぶことはできないのです。
自宅の場所によっては、営業活動がしにくい
自宅が都内にあれば、それほど問題はありませんが、一都三県などやや都心から遠い自宅で開業してしまうと
- 営業
- クライアントへの訪問
- 取引先への訪問
に支障が出てきます。
月1回、2回の訪問であれば問題はありませんが
営業活動として、毎日アポを取って顧客先にいかなければならない場合は、アクセスの便が悪い自宅で起業してしまうと
- 時間的なロスが増える
- 交通費などの支出が増える
デメリットが出てきます。
融資を受けにくい
銀行は、融資の審査では必ず「訪問」することで、現場のチェックを行います。
- どんな体制で事業を営んでいるのか?
- 今後の成長可能性はどのくらいあるのか?
を見るためには現場に行くしかないからです。
と思う方もいるかもしれませんが、銀行は1名、2名の中小企業に融資をすることが目的ではなく、1名、2名の中小企業がどんどん成長していって、何億、何十億、何百億といった融資額になることを望んでいます。融資額が増えれば増えるほど、収益が上がるからです。
他にも自宅起業のデメリットってあるんじゃないの?
いや、世間一般的には他にも自宅起業のデメリットがあると言われていますが、それほど感じませんでした。
世間一般的に言われている自宅起業のデメリット
そんなことはありません。
生きるか死ぬかの戦いをしているのに「オンオフの切り替えができない」なんて、言い訳が生まれてくるはずがありません。
会社員ではないのですから、起業直後の経営者にオンオフの切り替えなんて不要でした。ずっと「オン」ですから、それは自宅起業のデメリットにはなりませんでした。
これも関係ありません。
「自宅だと安心してしまって、徐々に起業の意欲をそがれてしまう。」ということを言っているのかと思いますが、そんなテンションなら、はじめから起業していません。
ありません。
盗まれて困るものなんて、起業直後の会社にはありませんし、顧客情報などのデータはインターネットで十分にプロテクトできるので、問題ありません。
私の場合は、パソコン(ID/PASS・顧客情報)、通帳、印鑑ぐらいのセキュリティに気を配って、小さめの金庫などを用意していました。
外注先は呼べます。
外注先にもよりますが、お金を払っている側ですので「自宅で起業していたから取引ができなくなる」というものでもありません。信頼が重要なクライアントとは違って、外注先にはぶっちゃけて自宅で起業していることを話しても、大きな問題になりません。
「一緒に這い上がって大企業になりましょう。」と言っておけば問題ないのです。
最近では、ウェブカメラでのオンラインミーティングの機能も、無料で利用できるものが増えていますし、大きな問題にはならないのです。
【結論】自宅で起業する?オフィスを借りる?どっちがいいの?
自宅起業・在宅起業のには、いろいろなメリットデメリットはありますが、筆者が感じた最大のメリットデメリットは下記になります。
自宅起業・在宅起業の最大のメリット
起業直後の資金繰りが楽になること
これが最大のメリットと言っていいでしょう。
お金がかからないのです。
資金繰りが楽になるからこそ
- 精神的な負担も少なくなる
- 資金ショートまでの猶予期間が長くなる
- 長くなった猶予期間中に黒点できればよい
- 損気分岐ラインが低くなる
というメリットが出てくるのです。
自宅起業・在宅起業の最大のデメリット
会社の成長スピードが落ちる
自宅で起業してしまうと
- 営業活動が制限される
- 顧客を呼べない
- 採用ができない
- 商談や打ち合わせの回数が減る
というデメリットが出てきます。
事業を拡大していくスピードがかなり落ちてしまうのです。
キャッシュフローの不安がほとんどない方 → オフィスを借りて起業もあり
- 潤沢な資本金がある
- 売上0円でも24か月以上資金がショートしない
- すでに毎月〇万円というオフィス賃料をカバーできる売上が確保できている
会社の成長が義務付けられている方 → オフィスを借りて起業するしかない
- ベンチャーキャピタルから出資されている
- 親会社の資本が入っている
- 他の株主が会社の成長を重視している
オフィスがないと仕事にならない方 → オフィスを借りて起業するしかない
- 社員の雇用が必須条件の方
- 会社へ顧客を呼ぶことが必須条件の方
- 自宅が地方にありすぎて都内に出てきにくい方
- 都内の会社への営業活動がメインになる方
キャッシュフローに不安がある方 → 自宅起業がおすすめ
- オフィスを借りると6か月以内に資金がショートしてしまう
- 起業直後の売上の見込みが立っていない
オフィスがなくても仕事に支障がない方 → 自宅起業も検討の余地あり
- インターネット起業でオフィスが不要な方
- 商談、来客、訪問が不要な方
- 採用の予定が全くない方
私の経験から言うと
- 仕事をするのにオフィスが必須条件でない方
- 株主から強い要求があるわけではない方
の場合は
- 予定しているオフィスの賃料の3倍以上の毎月の利益が確保できるまでは自宅起業
- オフィスの賃料の3倍以上の毎月の利益が確保できてからオフィスを借りる
- オフィスを借りてから社員の採用など会社の成長に力を入れる
という順を追った事業計画の方がリスクの少ない成長が描けるのではないかと考えます。
起業への憧れの強い経営者ほど
いきなり渋谷や新宿等の一等地にオフィスを借りる
いきなり社員を雇う
という行動に出てしまいがちですが、経験してみるとそれほど自宅起業のデメリットはありませんので、まずは賃料分の利益が確保できてからでも遅くはないのです。
自宅起業、在宅起業をするときの経験者からのアドバイス
営業的な問題があるのであれば、バーチャルオフィスを活用するのも一つの手
バーチャルオフィスは
- 法人登記
- 郵便物の受取、転送
- 電話対応
等の機能があり、月1万円程度で利用することができます。
自宅起業では、地方の住所が書いてあって、仕事に支障があるということであれば
- バーチャルオフィスを利用して登記の住所を自宅以外にする
- 名刺はバーチャルの住所を使う
- 仕事は全部自宅で行う
- バーチャルオフィスでの打ち合わせは拒否する(こちらから出向く)
対応をすれば、実質「自宅起業」なのは変わりありませんが、対外的には登記も、名刺も、バーチャルオフィスの住所なので「新宿や渋谷にある会社だ。」と思ってもらえます。
オンオフの切り替えが問題になる方はオフィスっぽい部屋にリフォームする
私の場合は、問題ありませんでしたが
テレビを見て、ソファーに座って、ベッドで寝る部屋で仕事をするのが切り替えられないという方もいます。
その場合は
- 仕事用の部屋を別の部屋にする
- オフィスのようなレイアウトにする
- オフィスのようなクールな壁紙にする
- テレビ、ラジオ、ソファーなど「くつろぎ要素」の家具を排除する
- マンガやDVDなど「くつろぎ要素」の物を排除する
ことからはじめると良いと思います。
積極的に外出する
自宅起業で毎日自宅で仕事していると、どうしても、情報が制限されてしまいます。
- こちらからクライアントや取引先への訪問回数を増やす
- セミナーに積極的に参加する
- 異業種交流会に積極的に参加する
- 経営者仲間との飲み会などに積極的に参加する
- 競合他社のサービスや商品の調査に行く
・・・
など、ある程度ルーティーンで外出する予定を作っておくと、ビジネスの情報が入ってきますし、アイディアも出てきます。
まとめ
自宅起業・在宅起業のメリット
- 資金ショートの不安が大幅に軽減される
- 移動の時間がない
自宅起業・在宅起業のデメリット
- 採用ができない
- 顧客を呼べない
- 自宅の場所によっては、営業活動がしにくい
- 融資を受けにくい
自宅起業・在宅起業の最大のメリットは
- 起業直後の資金繰りが楽になること
自宅起業・在宅起業の最大のデメリットは
- 会社の成長スピードが落ちること
です。
一長一短ありますが、どちらも経験した筆者の意見としては
- 予定しているオフィスの賃料の3倍以上の毎月の利益が確保できるまでは自宅起業
- オフィスの賃料の3倍以上の毎月の利益が確保できてからオフィスを借りる
- オフィスを借りてから社員の採用など会社の成長に力を入れる
と、段階を追って、自宅起業からオフィスへステップアップしていけば良いと考えます。
これであれば、自宅起業・在宅起業のメリットであるキャッシュフローの改善をしながら、会社の成長も追いかけられるはずです。
いきなりオフィスを持ちたい経営者も多いと思いますが、売上の見込みがない、資本金が少ないのもかかわらず、一等にオフィスを構えてしまって、6か月でつぶれてしまっては元も子もありません。自宅起業・在宅起業は、十分に検討する価値のある経営手段なのです。